2011年8月21日日曜日

影の最高神、シュリ・チャクラ


ヨーガ・チャクラにおいて重要な意味を持つクンダリーニだが、これは女神達の生殖力、あるいは活動力をコスミック・エナジーとして神格化した、デヴィ(女神)・シャクティへの信仰と密接に結びついていた。そしてそれは、ヒンドゥ教の隠れ最高神とも言えるシュリ・チャクラの思想へとつながっていく。

 クンダリーニ・ヨーガはタントラ教典に由来している。それによれば、私たちは目に見える身体と重なる形で、微細身と呼ばれる目に見えない霊的身体を持っている。微細身の背骨にあたるスシュムナー管に沿ってイダーとピンガラという本のナディ(脈管)が通っていて、それら三本の脈管を結ぶように7つのチャクラが段階的に並んでいる。

 一番下のムーラダーラ・チャクラにはブラフマー神がリンガ(男根)の形で存在し、それを三回半巻く形で、クンダリーニと呼ばれる蛇の姿をしたドゥルガー女神が眠っている。このクンダリーニ・シャクティがヨーガの実習によって覚醒し、各段階のチャクラを開きつつナディを駆け上がり、頭頂部のサハスラーラ・チャクラに住まうシヴァ神と一体化した時、瞑想者の意識は神と融合し、モクシャ(解脱)を成就すると説明される。

 シヴァ神は全ての男性神を象徴し、クンダリーニ・シャクティは全ての女性神を象徴するとも言う。この男性原理と女性原理の結合によって初めて、この現象世界の全てが展開する。そこで主導的な役割を果たすのはコスミック・エナジーとしての女神であり、男性神はあくまで受身、世界の展開力である女神の働きかけがなければ、動く事さえできない。

 この様な女神の活動力に対する信仰は、遠くインダス文明に見出される地母神信仰に発すると言われ、父系社会のアーリア文化に対する、母系社会の先住民文化の復権とも位置付けられるだろう。

 それを具象化したものがシュリ・チャクラ・ヤントラと呼ばれる聖なる図形だ。ヤントラとは器具、あるいは道具を意味し、シュリ・チャクラ・ヤントラは大女神の神威よって人々の日常を守護するべく作られた守護符だった。

シュリ・チャクラ・ヤントラ

 その形は女性原理を象徴する下向きの5つの三角形と、男性原理を象徴する上向きの4つの三角形によって構成され、その周りを二重の華輪が取り巻いた美しいチャクラ・デザインを形作っていた。

 バラジーの思想的背景にもあったが、特に南インドにおいて、ブラフマーとヴィシュヌとシヴァの男性三神が融合したトリムルティと、それぞれの神姫であるサラスワティとラクシュミとパールヴァーティ(あるいはドゥルガー、カーリー)が融合したデヴィ・トリムルティが、男性原理と女性原理を象徴しつつ結合し大宇宙の至高神となる、コスミック・エナジー(シャクティ)の信仰が著しく発達していた。

 それを端的に象徴する基本図形が、六芒星だった。これは複雑に錯綜するシュリ・チャクラの形とその理念を、男女神を表す二つの相対する三角形によって抽出したものだが、逆に六芒星からシュリ・チャクラが派生したとも考えられる。

 それは下向きの三角形が天界から降る神の恩寵を表し、上向きの三角形が人間の神への希求を表し、その両者が二つながらひとつに融合し一体化した時、初めて大いなるサマーディ(三昧)が成就するという。ここにおいて、真実の神が、実は女性原理であることが見事に暗示されているのだった。

アンバージー・ヤントラ

この六芒星のデザインは様々な神々のヤントラとして、ヨーガ・チャクラのシンボルとして、さらには密教の曼荼羅として、その後大きく展開していく事になる。そして、この六芒星の三組の対角を線で結べば、それは見事にインダスの印章文字を表している事に気付くだろう。このデザインは最もシンプルかつ基本的な華輪として、現代にいたるまで脈々と受け継がれている。

インダスの紋章と重なり合う吉祥デザイン

男女交合と神人合一を象徴する六芒星のデザインと、それを内包したシュリ・チャクラの信仰は、その後北インドをも席捲し、男性原理が優先したアーリア・ヴェーダの世界を飲み込んでいった。現代インドで見られるヒンドゥ教は、ほとんどその全てがシャクティ信仰の洗礼を受けたものだと言っても言い過ぎではない。地母神信仰に発するデヴィ・シャクティによって神々が統一されシュリ・チャクラとして結晶化した時、それはドラヴィダ先住民の宗教思想が、ついにインド世界を統一した瞬間だったのだ。


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